nittoKAIでは、激動する中東情勢を踏まえ、３回の連続セミナー「最近の中東情勢と今後」を企画しました。

第二弾となる10月30日は、内藤正典　氏　（同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科長・教授）をお招きし、「中東の地図が変わるのか？－「アラブの春」は将来の中東に何をもたらすのか？」と題してお話し頂きました。

内藤先生のシリア留学時代のお話や、中東・欧米諸国の要人とのやりとりなど、生きたエピソードや、たとえ話をふんだんに織り交ぜてご解説いただいたので、複雑に見えたり誤解しやすい中東情勢を、より正しく知る機会になりました。

50名強ほどのお客様にお聴きいただけましたが、より多くの方にも見ていただきたいので、会場で配りましたレジュメをシェアさせて頂きます。
ご興味のある方はご覧ください。


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中東の地図が変わるのか？－「アラブの春」は将来の中東に何をもたらすのか？

内藤　正典・同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科長・教授

１．「アラブの春」をどうとらえるか
　　①欧米諸国の勘違い･･･「アラブの春」は一部で民主化をもたらしたが、一周遅れの東欧民主化ではなかった。
　　②「アラブの春」はイスラーム主義者にハイジャックされたのか？・・・これも欧米諸国の勘違い。最初から民衆の多くがムスリムである中東諸国では、政治と統治における「イスラーム的公正」を求めていた。そのため、体制変革後にイスラーム政党が相次いで勝利した。

２．「アラブの春」を悲惨な状況に導いた欧米諸国
　　①チュニジアとエジプトまでは良かった
　　②リビアに対する軍事介入・・・国連安全保障理事会の決議に基づいて「人道的介入」の名目で英仏を中心に軍事介入し、カダフィ政権を打倒。しかし、背後には石油利権。
　　③シリアには介入せず

３．シリアの混迷をどう理解するか
　　①最初から、落としどころがなかったアサド体制への抵抗･･･1980年代の初頭にも、ムスリム同胞団主体の抵抗があったがアサド政権側の大虐殺で終焉
　　②スンニー派vs.アラウィー派ではない･･･アサド政権の中枢にはアラウィーが多いが、彼らをシーア派の一派とみるのは間違い。ほとんど宗教色はなく、体制側あることによる利益だけで団結している集団。ただし、もともと、スンニー派からは差別的に処遇されていたことは事実。
　　③アサドには逃げ場がない･･･チュニジアで政権を負われたベン・アリはスンニー派のアラブであり、サウジアラビアが庇護した。アサドには逃れる場所がない。

４．シリア情勢のゆくえによっては、中東の地図が塗り変えられる可能性がでてくる
　　①関係修復は不可能･･･アラウィーをラタキヤ周辺に、クルドが北部、スンニー派がそのほかの地域で支配権を確立して事実上の分断国家になることは、紛争を停止させるための方策として出されているが、重大な帰結をもたらす。
　　②周辺国のスタンス･･･イランはアサド体制の維持、トルコはスンニー派住民の虐殺に不満を募らせながらも、分断には否定的、イラクは分断を歓迎する可能性あり、レバノンは内部の宗派関係が複雑すぎて意見が割れる、イスラエルは分断に否定的
５．もしシリアが分裂した場合
　　①北部のクルド人は北イラクのクルド自治区と連携する。この場合、トルコのクルド人のあいだに、自治・独立の運動が加速される。
　　②イランは、最後までアサド政権の擁護にまわるが、分断されるため、スンニー派とのあいに衝突
　　③イラクは、スンニー派とシーア派の対立に発展するなら、衝突を回避する方向に動くが、すでに事実上分裂しているため、クルドはシリアのクルドと、シーア派はアサド体制と、スンニー派はシリアのスンニー派と連携する可能性があり、各々が、結局は勢力拡大に動くため、混乱は激化を避けられない。
　　④イスラエルにとっては、アサド体制の維持が必要。ダマスカスをスンニー派が支配することは認められない。

６．現在の中東の諸国家体制は誰がつくったか
　　①自力での独立はトルコとイランだけ。
　　②アラブ諸国は、概ね、英仏による国境線
　　③領域国民国家のもつ矛盾が噴出することにより、再イスラーム化への道がひらかれる。

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