日本トルコ文化交流会 TURKEY JAPAN CULTURAL DIALOG SOCIETY

Mar26

nittoKAIでは、3月8日の国際女性デーを記念してトルコで行われるシンポジウムに、日本の教授2名と作家1名の参加をコーディネートしました。
2012年2月28日~3月12日、nittoKAIスタッフと共にシンポジウムやワークショップに参加したり、施設を訪問したりしながら、トルコの観光も堪能していただきました。

旅程概要:

震災支援NGO団体“Kimse Yok Mu ?(キムセヨクム?)”財団 訪問。
ジャーナリスト作家財団にてワークショップ「トルコと日本における女性と家族」で発表
ジャーリスト作家財団のHPの関連ページへジャンプ
家庭訪問
ガズィアンテップにてズィルベ大学訪
ザマン新聞社訪問
ファーティヒ大学にて国際女性デー「日本とトルコの女性と社会」で発表
観光地(イスタンブール歴史地区、エフェソス遺跡、マリア晩年の家、カッパドキア奇岩群、カフラマンマラシュ、ガズィアンテップ、シャンルウルファ、ハッラン村などの世界遺産)を観光


*     *     *      *     *     *     *

参加者の感想


夕空の鳩             
         
原田マハ(作家)

 初めて訪れたトルコの旅から帰ってきて、二週間が経つ。いまだにかの国のことを考えれば、思いがけず好きになってしまった人のことを思い出すように、胸がときめく。
 なにしろ一度行ってみたい国だった。私は長らく美術関係の仕事をしていたこともあり、いままでに世界中の国々をあちこち訪ね歩いてきたのだが、どういうわけだかトルコにだけは行ったことがなかった。いつか必ず行きたい、しかし行くときには観光ではなく特別な何かをしたい、と思っていた。美術館の仕事をしているときには「いつかトルコで展覧会を仕掛けてみたいものだ」と思っていたし、作家になってからは「いつかトルコで取材して物語を紡いでみたい」と思ってきた。そのくせ、トルコという国に関して深く知っているわけではなく、トルコ人の友人がいるわけでもなかった。
 それなのに、ほんとうに最初から、トルコは私にとって「特別な国」だったのだ。どうしてなのかはわからない。おそらく、イスタンブールを巡って幾多の権力者が争ってきた歴史や、シルクロードの終着点という土地柄や、さまざまな物語と芸術品に彩られた国であるというイメージが、「特別な国」という思い込みを私に抱かせたのだろう。
 その「特別な国」を訪問するチャンスが、ついにやってきた。3月8日の世界女性デーを記念したシンポジウムやワークショップへの参加のお誘いを受けたのだ。日本の女性/家族問題を研究する社会学者の平尾桂子先生、小笠原祐子先生とともに、「女性と家族の問題を小説に書き続けている」作家である私にお声がけいただいた。女性/家族問題について小説を書いている日本人女性作家はあまた存在する。その中でこの私に白羽の矢を立てていただいたことは、大変な幸運であり、方外の喜びであった。長い間空想していた「トルコに行くときには特別な何かをしたい」という思いが実現したのは、日本語に長け、私の小説を細やかに読んでくださっていた日本トルコ協会のAさんのおかげである。彼女は私にこんなメールを送ってきた。「あなたのホームページのプロフィールに書いてある通り、『度胸と直感』でこの話を受けてくださることを願います」。――もちろん、受けずにいられようか!
 ツアーでは、イスタンブールを中心に、トルコ国内のいくつかの都市を訪ねた。シンポジウム参加が今回のツアーの目的ではあったが、Aさんを初め、本ツアーの支援者各位は、トルコ初訪問である私たち三人を、事務的にシンポジウムに参加することだけで終わらせようとはしなかった。彼女たちの尽力と腐心のおかげで、私たちの旅は忘れがたいものとなった。あまりにもさまざまなサプライズと感動に満ちた旅であったので、挙げつらうときりがないのだが、ひとつだけ思い出深い体験を記しておく。
 トルコ東部の都市、シャンルウルファのとある家庭を訪問したときのこと。すばらしい手作りの昼食でもてなしていただいている最中に、「トルコ人は隣人を大変大切にする」という話題になった。隣人は親戚のようなものだと。なんなら今から隣の家のドアをノックして、皆で訪ねてみましょうかと言う。私たちは「まさかあ」と笑った。ドアを開けた向こう側に見知らぬ日本人が三人も立っていたら、びっくりしてドアを閉められてしまうだろう。
 ところが、驚いたことに、隣のドアはあっさりと開けられ、すぐさま私たちは清潔で日当りのいいリビングに招き入れられた。部屋の中央にはおばあさんがひとり、座っていた。私たちは磁石に引き寄せられるように彼女に引き寄せられ、しっかりと抱きしめられて、両頬に接吻を受けた。すぐに彼女の夫、息子、嫁などが出て来て、茶菓を振る舞ってくれ、よく来てくれましたと笑顔で歓待してくださった。そして、一家の家長であろうおじいさんが言った。今度は夏にいらっしゃい。あなたたちを私の田舎の家へ連れていきましょう。私はそこで鳩を飼っている。夕空に自慢の鳩たちを飛ばしてみせましょう。
 出会ってわずか二十分、私たちはもう、人生の美しい瞬間を、喜びや悲しみを共有する友人同士になっていた。夕空に悠々と弧を描く鳩の群れが見えた気がして、私はなぜだか涙がこみ上げ、困ってしまった。
 彼らの人生に、ほんの瞬間、唐突に現れて消えていく泡沫のような通行人である私たちを、友としてあたたかく迎え入れてくれる包容力。それは、トルコ各地で出会ったどの人にも共通するものだった。食も、文化も、芸術も、ビジネスも、どれもがトルコを旺盛にしている。けれど、どんなことよりも、トルコの人々こそが、彼らの国をかくも豊かにしているのだとわかった。そんな国を、人々を、好きにならずにいられようか。
 かくして、日本へ帰り着いた私は、いまだに夢見心地である。なつかしい友のいる町を思って、胸を熱くしている。
 また、行かなければならない、トルコへ。帰らなければ。友が待っていてくれるのだから。いつの日かきっと、夕空に鳩の群れを飛ばしてみせてくれるはずなのだから。


******************


トルコとの出会い

平尾桂子 (上智大学大学院地球環境学研究科 教授   )

「この出会いは大切だ」という直感。
一目惚れ、という言葉にそんな定義があることを最近知った。この定義に従えば、私とトルコの出会いは「一目惚れ」に近い。
もっと知りたい、もっと近づきたい、もっと親しくなりたい。
そんな直感に導かれ、そして何かに呼ばれるように、私たちはトルコへと旅立った。
ボスポラス海峡の東が「アジア」、西は「ヨーロッパ」であることを、生まれた初めて訪れたイスタンブールで知った。肥沃な大地に育まれた贅沢な食事に舌鼓を打ち、文化と歴史の地層が築いた数々の遺跡を訪ね、イスラームの土壌に新しく芽生えたボランティア活動の世界的広がりに目を見張った。そして、何よりも印象深かったのは、行く先々で受けた、心のこもった手厚いおもてなし。
トルコで出会った人々は、私たちをまるで古い友人のように招き入れ、もてなしてくれた。彼らと交わした熱い抱擁、言葉が分からなくても気持ちが通じる喜びが、私の心をあたたかくする。この気持ちを日本の人に伝えたい。
今回のトルコ訪問をサポートしてくださった日本トルコ文化交流会、PASIAD、ジャーナリスト作家財団、ファティーヒ大学、および、旅を支えてくださったすべての方に、心から感謝申し上げます。
そして、コーディネーターの方に一言。
Tesekkur ederim!

*************

トルコの旅

小笠原祐子 (日本大学経済学部 教授)

 年末にトルコに行かないかと誘われてからわずか2ヶ月後に、イスタンブール空港に降り立ちました。あれよあれよという間に計画が立てられ、ほんとうにトルコに行くのか、行けるのかと夢見心地のまま踏み出した旅でした。しかし、異例だったのは計画の段階だけではありません。旅程そのものが異例づくめでした。
 トルコは歴史的遺物と遺跡の宝庫です。ち密に練られたプランのお陰で、今回の旅ではそれらの一部を精力的に見て回ることができました。イスタンブールのトプカプ宮殿やアヤソフィア聖堂やブルーモスクはもちろんのこと、古代世界の七不思議に数えられるアルテミス神殿跡があるエフェソスや雪景色のカッパドキア、アブラハムやヨブなど旧約聖書の人物たちが暮らしたという聖地シャンルウルファまで足を伸ばすことができました。どこでも現地のガイドさんが懇切丁寧に案内をしてくれました。
 しかし、今回の旅が本当の意味で異例だったのは、いわゆる観光名所巡りに終始しなかった点でしょう。トルコの社会に少しでも深く触れることができるよう、ワークショップへの参加、一般家庭訪問や現地の人々との会食、大学や新聞社やボランティア団体訪問などを旅程に組み入れてくださったことです。どこでも私たちの好奇心は旺盛で、次から次へと繰り出される質問を見事に通訳してくださったNittokaiのコーディネーターの方は、食事も満足に取れなかったのでは、とあとで心配になったほどです。
 そのようにして知り得たトルコ社会は、私を魅了し、また、ある種の再考と反省を迫るものでありました。歴史的遺跡では、私が学んだ歴史がいかに西欧中心史観であったかに気づかされました。一般の家庭では、家族と過ごす時間や隣人との付き合いを大切にしている様子が伺われ、いつの間にか仕事を中心に合理性と効率性ばかりを追求している自らの暮らしを振り返らざるをえませんでした。これらのことは、礼拝にいざなう厳かなアザン、味わい深いトルコ料理とともにこれからもたびたび思い出されることでしょう。

***********

フォトギャラリー

最新イベント情報

第1回エルトゥールル号からの恩返し・日本復興の光大賞15 報告書(PDF)
第2回エルトゥールル号からの恩返し・日本復興の光大賞16 報告書(PDF)
第3回エルトゥールル号からの恩返し・日本復興の光大賞17 報告書(PDF)
スタッフ募集
お知らせメール登録
nittoKAI facebook
nittoKAI twitter
pagetop